夢創作はいい。
何がどういいのかとハッキリ言えたらいいのだが、上手い言葉が見つからない。だから少し私と「夢」の思い出話をしてみる。
時は2003年までさかのぼる。当時めちゃくちゃ好きなゲームがあって、しかしまあ……エンディングで一番好きだったキャラは消えてしまったのだ。
もともとゲームをクリアしたときに、なんとなく世界に置いて行かれたような寂しさを感じてしまうタイプの人間だった。それに加えてキャラが消えてしまう喪失感。私は寂しさを紛らわすためファンサイトを一つずつ回った。イラスト、漫画、小説、見境なくサーチサイトやランキングを上から順にぽちぽちとクリックしていく。もっと言ってしまえば、そのファンサイトが何を取り扱っているかなんてあまり見ていなかった。本当になんでもよかったのだ。
そして私はついに夢小説と出会った。お相手××と表記された項目。よく分からないままクリックすると、あなたの名前を入力してください、と。
鮮明には覚えていないが、たぶん私は何も入力しなかったと思う。そして表示された文章を読んでいて、はてと首を傾げた。
名無しさんだったか、○○さんだったか、そこには明らかに異質な存在が。私はブラウザバックをして、再び現れた「名前を入力してください」のウインドウに適当な名前を入れた。すると名無しさんが私の入力した人名に変わった。フーンそういうことか、と仕組みを理解する。
しかしそれで終わりというわけではない。
ゲーム中に存在しなかった人間がいる。しかも主人公として書かれているのだ。主人公はキャラクターたちと一緒に旅をして、なんと私の一番好きなキャラと両思いになった。またそこまでの過程がいい。
最初は信用されてなくて、徐々に心を通わせていく二人。原作沿いの小説だったためゆっくりと時間をかけてお互い惹かれあっていく様子が丁寧に書かれていた。何度か喧嘩もしていた。ゲーム中では恋愛のレの字もなかったキャラだけど、この主人公がいたらそういう未来もあったかな、と思わせてくれた。
……しかし物語には終わりがある。やっぱり消えちゃうのかな~と思っていたら本当に消えてしまった。当然恋人だった「私」は泣く。パソコンの前で泣きじゃくった。何ならゲームをクリアした時よりも泣いた。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を拭いながら次話へ進む。
世界は平和になって、でもやっぱりあのキャラは消えてしまった。主人公が悲しみを胸に、けれど懸命に生きている姿が書かれている。完全にゲーム後の話だった。これはエピローグだ、この小説ももう終わりなんだなーと思っていると、最後の最後であのキャラの痕跡を感じる。ほんの少しの希望がそこには描写されていた。
私はそれだけで救われた。そしてこの創作形態を「夢小説」というのだと知って、私は夢を積極的に探すようになった。
同じキャラ相手の小説を探せる限り読みふける。キャラと一緒に死んだり、すれ違ったまま別れたり、キャラの代わりに死んだりと、いろいろな物語に触れた。主人公の性格も様々だった。主人公が違う人物だからこそ、どの物語も成立するのだと思った。
私は最初、夢主のことを原作に存在しないキャラとして認識していた。しかしそうでない場合もあった。キャラクターたちが訪れた街の住人、行く先々でばったり出くわす旅する商人と、パーティに同行しない夢主もいたのだ。人間ですらなかったこともある。犬や猫、幽霊になってキャラのことを見守ったこともあった。ゲーム中にはもちろんそんなエピソードは存在しないが、その世界にいたとしても何らおかしくはない存在として夢主が描かれていた。メインストーリーの合間に、もしかしたらこんなやり取りがあったかもしれない。そう思わせる説得力があった。原作では描かれていなかった一部を切り取ることも夢主を使えばできるのだと知った。
私は完全に夢創作に魅せられていた。私がもし夢小説を書くならどうだろうとその頃ふんわり考えてみたけど、上手くまとまらない。ただ目の前に大量の夢小説があり、どちらかと言えば読むのに必死だった。
2005年ごろ、私はついに夢小説を書いた。いつか書いてみたいとはずっと思っていて、それでもなんとなくタイミングが見つからなくて、同シリーズのゲームの新作が発売されて、今だ!と思ったのである。もちろんそのゲームをクリアしてからの話で、いつもと同じように喪失感に打ちひしがれていたときのことだ。
私は何の疑いもなく原作沿いの話を書き始めた。……が、進まない。ゲームのストーリーを何度も確認して、セリフをメモして、でも小説にしようとしたらできない。なんで~!?と思いながら私は書くのを止めた。話数にして約10話。ゲームで言えば序盤の序盤である。
次は気分転換もかねて短編を書いてみた。ゲーム中にはあまり触れられなかったキャラの過去を想像して、夢主は幼馴染という設定にした。短い話で何が書きたいかハッキリ決まっていたし、原作にそんなエピソードもないので自由にスラスラ書くことができた。
もしかして原作沿いって難しいのでは?と開き直った私は短編に走る。楽しかった。好きなキャラクターのことを考えて、こういうときはどうするかなとか、こんな夢主がいたらどうなるかなとか延々と考えるのだ。小説を書く作業というよりは、好きなキャラのことを考えている時間のようだった気がする。
一通り書いて満足した私は、サイトを閉鎖した。書きかけの原作沿い連載のことはちょっと気がかりだったが、無理だ!と思ってしまったものはしょうがない。
私は最初の夢サイトを閉鎖してから10年ほど読専をしていた。ゲームをしたらまず夢小説を探し、漫画やアニメを見ても夢小説を探す日々だった。やっぱり一番好きなのは原作沿いで、話数がズラーっと表示されるとワクワクするものだ。一気読みしようとすると平気で3時間持っていかれることもある。でも楽しくて楽しくて止められなかった。
不思議と10年間、夢小説を自分で書きたいと思うことはあまりなかった。なぜなのかよくわからないし、むしろなんで今書いているのかも実はよくわかっていない。
ふとまた書いてみようかなと思って、15話ぐらいの連載を非公開で書いてみた。なぜか書き上がる。これは行けるのでは?と思い、2016年に再び夢サイトを開設した。10年前にできなかった原作沿いの夢小説を全40話で完結させた。どうして書き上げられたのか理由は不明だが、その後もなぜか連載を完結させられるようになっている。せっかくこんな文章を書いているんだから理由ぐらいスパッと言って見せたいところだが、本当にわからない。いろいろ読んでいるうちに経験値が入ったのかな~とか、前よりも書きたいことが明確なのかな~とか、考えてみてもボンヤリしている。
今はサイト開設時ほどハイペースじゃないけれど、じっくり好きなキャラのことを考えたいときはまず「夢」という方法で形にしようとするのが自然になった。原作でアレレ?と思うことがあっても割と夢主を使って自分なりにそれを補完できるようになったし、キャラと恋に落ちたくて夢創作をすることもある。今まで読んだ夢創作のおかげで、大抵のことは夢主を使ってできるな~という認識なのだ。私がこのように考えられるようになったのは、数多くの素晴らしい夢創作に触れたからだ。これからも私の知らない夢主の新しい可能性に出会えることを期待しているし、私の書いた夢小説を読んで、読み手書き手に関わらず新たな夢創作を愛する者が現れたら嬉しい。